●紹介● 鵜飼政志
川北稔・鈴木正幸編『シンポジウム歴史学と現在』
本書は、歴史学の現状に対する不満・危機感を抱く歴史研究者たちが、未来への展望を語るための問題提起をおこなうべく、社会科学者と共同でおこなったシンポジウムの記録である。
内容は、七つの立論(川北稔「『間題』と『方法』の回復を求めて」・小路田泰直「日本史の到達と未来」・鈴木正幸「『日本君主制史論』の構想」・渡辺信一郎「中華帝国・律令法・礼的秩序」・足立啓二「専制国家と人類史発展の諸類型」・大江泰一郎「ロシアの国制と国民国家の法構造」・西村成確「中国歴史空間への再認識と『世界システム』」)と、各立論に対する討論(立論者のほか、水林彪氏と奥村弘氏が参加)から構成されている。
かくして、将来のための歴史学の現在が語られた本書であるが、内容的には、一九九一年度の歴史科学協議会大会シンポジウム「世界史認識の再検討I」を増補・編集した、鈴木正幸・水林彪・渡辺信一郎・小路田泰直編『比較国制史研究序説』(柏書房、一九九二年)の延長線上にあるため、日本・中国・ヨーロッバ(イギリスおよびロシア)の国制や国民国家形成過程の相互関連性や比較検討にほぼ限定されている。シンポジウム参加者も、一部を除きほぽ同じである。しかし逆にいえば、各国の国制や国民国家形成過程の相互関連性(関係史)および比較検討(比較史)が、現在のところ、それだげ注目をあびている議論であることを示しているともいえよう。
本書が、今後の歴史学に何らかの解答を与えているかといえば、それはわからない。各立論は、学界を代表する研究者たちの間題提起だけあって、示唆に富んでおり、ひじょうに説得力があるが、各討論は全体的に抽象的で、シンポジウム参加者の専門とする各国史研究の成果の確認にとどまっているからである。
むしろ本書の意義は、編者の一人である鈴木正幸氏が指摘するように、現在の歴史学における間題点の存在を共通認識し、「研究と討論を通じて解決してゆく試み、過去の解釈を通して現在を認識し、未来を論じょうとする研究主体を形成すること」(三ニニ頁)を意欲的に試みたことにある。この点で、タイトルどおり「歴史学と現在」を世間に語ろうとした本書は、歴史学の将来に関心があるものにとって、一読に値するといえるのである。
なお本書には、〔叢書歴史学と現在〕というサブタイトルが付されている。本書のような試みは、叢書としてその続篇が刊行されてこそ、その目的が達成されたかどうかがわかるものである。出版状況の厳しい昨今であるが、ぜひとも期待したい。
(柏書房、一九九五年一二月刊、三八○○円)
(うがいまさし)