●紹介●                                                             鵜飼政志

 田中彰著『幕末維新史の研究』


 田中彰氏は、戦後の明治維新史研究に一つの方向性を与えた二つの名著、遠山茂樹『明治維新』(岩波全書、一九五一年)・井上清『日本現代史I』(東京大学出版会、一九五一年)の方法論を、実証的に発展させた『明治維新政治史研究』(青木書店、一九六三年)の著者として有名である。同書には、数多くの批評が加えられ、その後、明治維新政治史の実証研究が本格的に前進したことは周知の事実である。
 本書は、田中氏が、『明治維新政治史研究』以降、三〇年間にわたって執筆した、明治維新政治史関係の諸論文を再録したものである。
 本書において田中氏は、幕藩体制崩壊過程のなかからいかなる政治的主体勢力が生まれ、それらがどのような近代統一国家形成への模索をおこなったのか(第一章「幕末の政治情勢」、第三章「薩長交易の歴史的意義」、第四章「幕府の倒壊」、第五章「近代統一国家への模索」)、さらに、開国をうけて社会情勢がいかに変化したのか(第二章「外圧と危機意識」、第六章「幕末の社会と思想」)、政権を掌握した維新官僚たちは、近代国家の形成においていかなる模索と葛藤をしたのか(第七章「明治藩政改革と維新官僚」、第八章「維新政権論」)を究明している。
 本書の提示する間題意識や実証内容は、きわめてオーソドックスなものである。しかし、オーソドックスであっても、田中氏のように、『明治維新政治史研究』および本書での明治維新政治史研究のほか、幕末藩政改革の研究(『幕末の藩政改革』塙書房、一九六五年)、幕末長州藩研究(『幕末の長州』中公新書、一九六五年・『高杉晋作と奇兵隊』岩波新書、一九八三年)、明治維新史学史研究(『明治維新観の研究』北海道大学図書刊行会、一九八七年)、岩倉使節団研究(『岩倉使節団「米欧回覧実記」』岩波同時代ライブラリー、一九九四年)と、多角的な明治維新史を描ける研究者は、現在そうはいない。
 また、近年の明治維新史研究は、一部を除き、幕藩制国家の崩壊過程として幕末都分のみを研究するものと、近代国家形成の原点として明治初年のみを研究するものと、明確に二分されている傾向がある。
 しかし、本来の明治維新史研究は、幕末、明治初年のいずれかに偏るのではなく、本書が提示するように、古きもののなかから、いかに新しいものが創出されたのか、つまり近世から近代へ至る交錯点を明らかにしていくものであるということを、あらためて確認させてくれる。
 田中氏の描いてきた明治維新史研究の軌跡は、われわれのまえにそびえたつ巨大な金字塔となっており、今後の明治維新史研究に対する一つの手引書となっているのである。
                                               (吉川弘文館、一九九六年三月刊、七九〇〇円)
                                                                    (うがいまさし)


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