【紹介】
 入江節次郎編『世界経済史ー世界資本主義とパクスブリタニカ』                                                                      鵜飼政志


 日本の歴史学界でも、とりわけ近現代史研究における西洋中心史観批判・一国史的歴史観批判・西洋の歴史を基礎とする発展段階論批判が主張されるようになってから久しい。そのために様々な努力が積み重ねられてきた。しかし、一部を除き、なおこういった歴史観は払拭しきれていない。特に批判対象である西洋史の研究者はそうである。
 このことは、そのまま西洋中心史観・一国史観・発展段階論に固執する非西洋世界の研究者に影響を及ぼしていることを否定できない。例えば経済史の分野において、資本主義成立には国民経済・市民社会の形成が必須条件といった公式的理解が依然として主張されていることに顕著であろう。
 本書は、この学問的状況を、まさに西洋中心史観・一国史観・発展段階論の形成された17〜20世紀前後を対象として、西洋経済史の分野から打破しようと試みたものである。
 本書の趣旨は、序章「経済史=世界経済史という思想と方法」(入江節次郎執筆)において明確に記されている。西洋経済史研究がおこなってきた方法論とその限界性が的確に整理され、西洋経済史を世界経済史という視点からとらえなおすことが主張される。本書のタイトルが、西洋経済史ではなく世界経済史となっているゆえんである。
 そして本書は、イギリスを事例にとりながら、西洋における資本主義は一国単位の国民経済・市民社会を基礎として発展したのではなく、アメリカ大陸との奴隷貿易や、インドや中国貿易との関係のなかで世界市場を形成していったのであり、また常に西洋の外延世界との関係のなかで展開されたという論旨でもって貫かれている。
 また、西洋(イギリス)経済が世界市場との関連で発展していくさまざまな要素を、16名の分担執筆とすることで、それぞれ最新の研究状況を盛り込みながら、独立して論じている点も本書の特徴である。
 各章は、対インド経済(貿易)史、対中東、対アフリカ、対南米といった、従来の西洋経済史研究ではそれほど重要視されてこなかった分野にも重点がおかれ、各々専門の研究者が西洋経済との関係について論じている。また、20世紀前後における「ロンドン金融市場」の役割にも多くの紙面が割かれているが、これも世界市場の諸要素が集中する場所という視点で叙述されている。いかに西洋経済が世界市場との関係において成立しているか認識させられる。
 本書の提示する西洋経済史の再構築を迫る歴史観について、われわれは考えさせられることが多い。まさに、好著といえよう。
                                                  (ミネルヴァ書房、1997年5月刊、3500円)

                                                                    (うがいまさし)


戻る