【紹介】高村直助編『明治の産業発展と社会資本』
鵜飼政志
本書は、近代日本経済史研究に数々の実績を残してきた高村直助氏(東京大学名誉教授、現フェリス女学院大学教授)、および東京大学文学部等で高村氏の指導を受けてきた若手研究者たちが進めてきた、日本資本主義形成に関する共同研究の成果を公表した第三冊めの論文集にあたる。
ちなみに、本書に先行して公表された論文集名を挙げると、第一冊めが『日露戦後の日本経済』(塙書房、一九八八年)、第二冊めが『企業勃興ー日本資本主義の形成』(ミネルヴァ書房、一九九二年)である。
本書は、産業革命研究の深化に必要でありながら、実証的に手薄な社会資本および地域経済に関する諸問題を扱っている。具体的には、「産業革命」「社会資本」「地域経済」という三つのキーワードを意識しながら、一三本の論考が自由に主題を設定し、自由に実証研究を展開している。
寄せられた論考のうち、多くが「道路」および「鉄道」に関する問題を各論者の専門分野と絡ませながら、各県単位で実証をおこなっているのもまた特徴的である。
本書を通読すると、現在の研究状況からすれば、「産業革命」という理論概念にあまりに正直すぎるのではという感想を覚えないともかぎらない。むしろ、「産業革命」概念そのものを再検討したうえで、それでも「産業革命」研究を展開することの意味を問うような論考も必要ではなかったと思う。しかし、それはないものねだりであろう。なぜなら本書は、ないものねだりを覚えさせるほど、それだけ実証研究に徹したものだからである。
本書を構成する各論考は、理論的な問題への言及を極力排し、手堅い実証研究たることを心がけていることで共通している。この点こそ、本書の最も特徴的な点である。また、本書がキーワードとして挙げている三つのうち、「社会資本」、「地域経済」は、産業革命にこだわらずとも、日本経済史研究全体を理解するために重要な問題として、近年、その実証研究が盛んに進められている分野である。ここにも本書の意義を見いだせる。
かくして、実証研究に徹底した本書は、「産業革命」云々といった理論概念の是非を超越し、今後の明治期日本経済研究を進めるうえで、必ず参照すべき、あるいは前提となるべきほどの、緻密な実証研究として評価されていくであろう。ただ、こう記すと産業革命研究にこだわり続けてきた編者には叱責されるかもしれないが。
いずれにしろ、理論概念は時代とともに変化していくが、緻密な実証論文は時代を超越して評価されていくということを痛感させてくれる傑作が本書なのである。
(ミネルヴァ書房、4800円外税)
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